研究内容

 

トマト果実発達を司る遺伝子ネットワーク解明と育種応用技術開発

 トマトの遺伝子はゲノム中に35,000個ほど存在しています。当研究グループでは果実の肥大性が変化したトマト変異体(遺伝子が破壊された個体)、果実内に蓄積する機能性成分含量が変化したトマト変異体を多数有しています。これらの変異体を利用することで果実分化・発達に必要な遺伝子を単離して、果実形成を司る遺伝子群が織りなす分子ネットワークを解明することを目的しています。当グループではトマトの果実形成の分子基盤解明を目指すのみならず、「研究の成果をどのように実際の農業に結びつけるか?」という園芸・育種的応用実現性の可能性にも挑戦し、効率的多収生産が可能な品種や高機能性成分が高蓄積するような、時代に求められている品種の開発に取り組みます。米国コーネル大学コールドスプリングハーバーラボラトリー研究所フランス国立農学研究所を始め、世界のトマト研究グループとの共同研究も行っています。海外での研究留学に挑戦したい方はぜひお越し下さい。

研究のコンセプト:新たに「食資源」を開発して食料安全保障のために活用する

研究課題

国内の食料自給率の向上と世界の食料問題の改善を目的として以下の研究を実施しています。

【1. トマト収量性強化に向けた育種研究

トマトは農作物の生産量が世界第11位、生産高が世界第10位(野菜のみで見ると共に第2位; 2010, FAO)、国内でも年間115万トンほどが消費される、経済的に重要な園芸作物でです(2010,農林水産省)。当研究グループでは果実の肥大性や収量性に優れたトマトの変異体を解析をしています。またこれらの変異体が実際の育種母本になり得るのか?についての可能性を明らかにする研究を行っています。

参考文献
・Ariizumi et al (2013) Genes that influence yield in tomato. Breeding Science 63, 3-13 [link].

 

【2トマトの新規単為結果性遺伝子の同定と育種素材開発の研究

トマトの着果性(果実が実ること)はトマトの収量性を決定する重要な要因です。しかし、着果は高温、低温、高湿度や乾燥など、劣悪な環境下で著しく低下します。そこで、着果性を安定させるために植物ホルモン剤による肥大促進や、受粉効率を高めるために訪花昆虫(マルハナバチ)を利用したり、あるいは開花した花への振動処理が不可欠です。しかしいずれも、高コスト・重労働といった問題を抱えています。「単為結果性」は受粉無しで果実が肥大する性質であり、着果性の効率を高めるツールとして注目を浴びています。しかし、単為結果性を引き起こす分子機構は未だに未解明な部分が多いのが現状です。そこで、単為結果の分子機構の全容を解明して、単為結果性に優れた新しいトマト品種を開発する研究を行っています。(詳細はこちらをご覧下さい。BRAIN代表:江面浩教授)このプロジェクトは理化学研究所、カゴメ総合研究所との共同研究で進めています。現在、我々のグループでは単為結果性を示すトマト変異体を独自に単離し続けています。これらの原因遺伝子を同定し、実際の品種開発を行なう応用研究も進行中です。

 ←左が野生株、右がオーキシンの感受性が高まった変異体。果実の形成が早まっているのが分かる。

参考文献
・Ariizumi et al (2013) Genes that influence yield in tomato. Breeding Science 63, 3-13 [link].
・Shinozaki et al (2015) Ethylene suppresses fruit set through modification of gibberellin metabolism. The Plant Journal
・Hao et al (2017) SEXUAL STERILITY is essential for both male and female gametogenesis in tomato. Plant & Cell Physiol
・Ezura K et al(2017)Genome-wide Identification of Pistil-specific Genes Expressed During Fruit Set Initiation in Tomato (Solanum lycopersicum). PloS ONE
・武井ら(2017)トマトの生産安定化に寄与する単為結果の作用機序. 育種学研究

【3. ゲノム編集技術による育種素材開発と技術高度化

ゲノム編集技術は、標的とした遺伝子領域に直接変異を誘導(編集)できる新しい育種技術です。そのため、迅速、かつほぼ確実に新しい遺伝子変異(アレル)を創生することが可能となり、通常必要であった育種の時間(4〜8年)を大幅に短縮できる利点があります。そこで、ゲノム編集技術をトマトへ適応させて新しい育種素材を開発する研究を行っています。また、ゲノム編集技術をさらに高度化させる研究も行っています。


参考文献
・有泉亨,伊藤康博,三浦謙治,江面 浩:ゲノム編集技術のトマトへの応用・アグリバイオ創刊号, 2017年1月号
・篠崎良仁・有泉亨「人工ヌクレアーゼを利用したゲノム編集技術」NBT-new breeding techniques-国際文献社 p17-30, 2013
・Shimatani et al (2017) Targeted base editing in rice and tomato using a CRISPR-Cas9 cytidine deaminase fusion. Nature Biotechnology, in press [link], [Details]

【5トマトの花色を決定する遺伝子の機能解明

被子植物は鮮やかな色をした花を形成し、花粉媒介者を惹き付けて受粉効率を高めています。その結果、種子が形成されて子孫を残しやすくなります。トマトは黄色い花を形成しますが、同様に花粉媒介者を惹き付けるためと推測されます。花の色は色素によって決定します。とりわけ黄色はカロテノイドと呼ばれる色素の種類や量によって決定されます。我々はトマトの花を黄色くする原因となる遺伝子の解析を行なっています。その結果、色素の程度をより強めることで受粉効率が高まるようなトマトができるかもしれません。また、この遺伝子を他の花卉に導入して、これまで存在しなかった花の色を示す花卉の開発を目指しています。このプロジェクトは花き研究所と共同で進めています。

 ←トマトの花 ←分析の一例

参考文献
・Ariizumi T et al. (2014) Identification of the Carotenoid Modifying Gene PALE YELLOW PETAL 1 as an Essential Factor in Xanthophyll Esterification and Yellow Flower Pigmentation in Tomato (Solanum lycopersicum). The Plant Journal, 79:453-465 [link].

過去の研究テーマ

1. 雄性不稔性を示すシロイヌナズナ変異体の分子生物学的解析(東北大学 植物遺伝育種学研究室)

 雄性不稔性は農学上重要な性質で、F1ハイブリッド品種作出の際に用いられています。雄性不稔性を引き起こす核遺伝子の候補は、葯や花粉の発達に必須な遺伝子と考えられますが、その実態はほとんど明らかとなっていません。そこでゲノム情報が豊富なシロイヌナズナを用いて、雄性不稔遺伝子の網羅的単離・解析を目指した研究を行っていました。その結果、花粉形成には正常な花粉壁(エキシン)の合成が必要であることが明らかとなりました(Ariizumi et al. 2004 Plant J)。また、正常な花粉壁形成には花粉壁の構成要素であるスポロポレニンの合成、花粉母細胞分裂期に合成されるカロースの合成、あるいはスポロポレニン付着の足場となる花粉のプライムエキシン形成の3つの要因が必須であることがわかりました(Ariizumi and Toriyama, 2011 Annual Rev Plant Biol)。

                         

2. 種子発芽を制御する植物ホルモンジベレリンの情報伝達機構解明(Washington State University, Steber Lab)

 植物ホルモンのジベレリン(GA)は開花、種子発芽、細胞伸長を促進する農学上非常に重要なホルモンです。GAに起因する生理反応はGA情報伝達機構を経て引き起こされます。GA合成の全容が明らかになりつつありますが、GAシグナル伝達の分子機構については、未解明な点が多いのが現状です。そこでシロイヌナズナの種子発芽を刺激するGA情報伝達経路解明を目的とした研究に従事していました。GA情報伝達機構には、GA反応を負に抑制するDELLAタンパク質、GA受容体GIBBERELLIN DWARF INSENSITIVE1 (GID1)、E3ユビキチンライゲースのSLEEPY1 (SLY1) の3つの因子の機能が必要と考えられています。基本的にGA反応はDELLAタンパク質の存在下では抑制されて、DELLAタンパク質がなくなるとGA反応が促進されると考えられています。しかし、シロイヌナズナのsly1変異体ではDELLAが過剰に蓄積しているにも関わらず種子発芽することを発見しました。つまり、sly1変異体においては、DELLAタンパク質の有無がGA反応(種子発芽)を決定するのではなく、DELLAタンパク質が何らかの翻訳後修飾を受けることにより、DELLAタンパク質の抑制活性の不活性化が起こり、GA反応が誘発されることが分かりました(Ariizumi and Steber, 2007 Plant Cell, Ariizumi et al. 2013 Plant Physiol)。

 次にこの「DELLAタンパク質不活性化」機構の解明を試みました。その結果、この不活性化にはGAレセプターであるGID1がDELLAタンパク質と結合することにより引き起こされることが明らかとなりました。この結果から、DELLAタンパク質は、単独で存在する場合はGA反応を負に制御しているものの、GID1-GA-DELLA複合体で存在する場合はGA反応を負に制御する活性を消失している(つまりGA反応を正に制御している)ことが明らかとなりました(Ariizumi et al. 2008 Plant Cell)。つまり、sly1変異体ではGID1-GA-DELLA複合体が多く存在しているために、DELLAタンパク質の分解無しで発芽できたと考えられます。興味深いことにこのメカニズムはイネでも保存されており(Ueguchi et al. 2008 Plant Cell)、高等植物で保存された機構かもしれません。

 GID1はGA受容体でGAを受容後にDELLAタンパク質と相互作用してGID1-GA-DELLA複合体を形成します。一方、SLY1はE3ユビキチンライゲースをコードしており、DELLAタンパク質と結合して、DELLAタンパク質へのポリユビキチン化を促進します。ポリユビキチン化されたDELLAタンパク質は26Sプロテアソームの機構を経て分解されます。シロイヌナズナにはSLY1のホモログ(SNEEZY)が存在します。 SNEEZY(SNE)もSLY1と同様にDELLAタンパク質と結合してDELLAタンパク質へのポリユビキチン化を促進し、26Sプロテアソームの機構を介した分解を誘導することが明らかとなっています(Ariizumi et al. 2011 Plant Physiol)。

   従来のGA反応のモデル   明らかとなったGA反応の新規モデル

 継続プロジェクトはSteber LabのAmber、Svenが行なっています。

参考文献

1.Ariizumi T, & Steber CM: Ubiquitin becomes ubiquitious in GA signaling. Plant Physiology, Fourth Edition by Lincoln Taiz and Eduardo Zeiger出版Chaper 20, Gibberellins: Regulators of Plant Height, Essay 20.3 (2006) [link]

2.Ariizumi T & Steber CM: Seed germination of GA-insensitive sleepy1 mutants does not require RGL2 protein disappearance inArabidopsis sleepy1 mutants does not require RGL2 protein disappearance. The Plant Cell, 19, 791-804, 2007 [link]

3. Ariizumi T, Murase K, Sun TP, & Steber CM: Proteolysis-independent downregulation of DELLA repression in Arabidopsis by the gibberellin receptor GIBBERELLIN INSENSITIVE DWARF1. The Plant Cell, 20, 2447-2459, 2008 [link]

4. Finkelstein R*, Reeves W*, Ariizumi T* & Steber CM*: Molecular aspects of seed dormancy. Annual Review of Plant Biology, 59, 387-415, 2008 [link] *Corresponding author 

5. Ariizumi T, Lawrence PK, & Steber CM: The role of two F-box proteins, SLEEPY1 and SNEEZY, in Arabidopsis GA signaling.          
Plant Physiology155(2):765-75, 2011 [link]

6. Ariizumi T & Steber CM:  Mutations in the F-box gene SNEEZY result in decreased Arabidopsis GA signaling.
Plant & Signaling Behavior, 1:6(6) 2011 [link]

7. Hauverale AL, Ariizumi T & Steber CM: Update on gibberellin signaling: A theme and variatins on DELLA repression.
Plant Physiology, 2012 [link] 

8. Ariizumi T1, Hauvermale AL1, Nelson SK, Hanada A, Yamagushi S & Steber CM: Lifting DELLA repression of Arabidopsis seed germination by non-proteolytic GA signaling. 1, equally contributed to the work, Plant Physiology, 162:2125-2139, 2013

9. Hauvermale AL1Ariizumi T1 Steber CM: The Roles of the GA Receptors GID1aGID1b, and GID1c in sly1-independent GA signaling. 1, equally contributed to the work, Plant Signaling Behavior,  In press, 2014